共産党の主張する「平和運動」

 

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■進む「民共合作」 日本共産党の思惑は…

 政局の季節が始まった。陰の仕掛け人は、日本共産党だ。

 昨年秋、日本共産党民主党(3月14日に維新の党と合流後の党名を「民進党」と決めたが、本稿では「民主党」とする)などに対して、「戦争法案」廃止を共通政策とする「国民連合政府」を目指そうと呼び掛けた。

 これに対して、民主党の支持母体である連合の神津里季生会長は昨年12月14日の時事通信とのインタビューで、共産党との選挙協力について「(共産党と連合は)歴史的に全く相いれない関係だし、向こうは敵対的関係をずっと持ってきた。やってはいけないことだ」と強く反対した。

 1月5日に開催された「連合2016新年交歓会」においても神津会長は「共産党はめざす国家体制が異なることやこれまでの歴史的経過からしても同じ受け皿ということには成り得ない」と、共産党との共闘を批判した。

 旧民社系労組出身の神津会長と連動して民主党内の旧民社系「民社協会」の川端達夫衆議院副議長もこう批判している。

 

《安倍さんや自民党がやっている政治は一つの考え方であるのは当然ですが、どの人に聞いても、それに対してもう少し人間や弱者などにウェートを置いた側の政治勢力が必要では、と言うと思います。ですが、向こう側とは違うというだけで集まるのはダメで、大きな共通の認識や旗の下に集まらなければならない。(中略)小さいままではダメで、力を合わせて選挙に勝とうというのはいいけど、何のために、何をするために、どういう国をつくるために、ということを大きな共通認識として持たない限り、それは烏合の衆で、いつかボロが出る》(『プレジデント・オンライン』1月13日)

 政策合意なき野党連合はダメだと批判したのだ。

 連合や民社協会の反対で民共合作は潰えるかと見えたが、民主、維新、共産、生活、社民の野党5党の党首は3月19日、岡田代表の提案で共産党との選挙協力を進めることで合意した。

 《岡田代表は、会談のなかで自身から

(1)安全保障関連法の廃止と集団的自衛権の行使を容認する閣議決定の撤回を5党の共通目標にする

(2)安倍政権の打倒を目指す

(3)国政選挙で現与党とその補完勢力を少数に追い込む

(4)国会での対応や国政選挙などあらゆる場面で5党のできる限りの協力を行う--の4点を提起し、5党で合意したと報告》(民主党の公式サイト)

握手を交わす共産党の志位委員長(左)と民進党の岡田代表(共同) 握手を交わす共産党の志位委員長(左)と民進党岡田代表(共同)

 支持母体の連合や旧民社系の反対を振り切って民主党の岡田執行部は、日本共産党とも組むことを決断したのだ。

 「共産党と組むとなれば、連合サイドが拒否反応を示し、民主党にとっては却ってマイナスになる」という意見もある。が、残念ながら、連合の組合員の大半はかつてほど共産党に対するアレルギーはないため、意外と選挙協力は進む可能性がある。

 しかも共産党との選挙協力を進めるとなれば、民主党の会合にも共産党の活動家たちは堂々と顔を出させるようになり、民主党の地方組織は共産党系によって取り込まれていくことになるだろう。何しろ理論武装という点から言えば、寄せ集め集団に過ぎない民主党や維新の党では、とても共産党には太刀打ちできない。

 選挙協力を通じて連合傘下の労働組合もまた共産党の浸透工作を受けていくことになるが、それに対応できる人材が果たして連合内部にどれほどいるのだろうか。連合の左傾化が心配だ。

■知識人・マスコミはコミンテルンの「デュープス」

 共産党の浸透工作と戦うためには、その手法をよくよく研究しておく必要がある。共産党コミンテルン(以下「共産党」と略)は、宣伝と浸透工作を重視しており、その手法は巧妙だ。

この共産党の手法を研究した専門書

『革命のインテリジェンス--ソ連の対外政治工作としての影響力』勁草書房)がこのほど発刊された。

 

 『ヴェノナ』(PHP研究所)の翻訳にも関わった佐々木太郎氏が近年、

次々と情報公開されている機密文書、

具体的には

ヴェノナ文書

ヴァシリエフ文書、

イギリスのMI5史料、

アメリカのFBI史料などを使って、

これまでのソ連コミンテルンによる浸透工作の実態を明らかにしている。

 各国共産党が他の政党と異なるのは、秘密工作を重視している点だろう。それまで対外工作、スパイ活動と言えば、相手国の技術や情報を盗むことが主要な任務であった。ところが共産陣営は、相手国のメンバーにソ連の利益となるような行動をとらせることを目的とした「影響工作」を重視してきた。

 佐々木氏によれば、アメリカのエドガー・フーヴァーFBI長官は、共産主義運動に関与する人物を次の五つに分類している。

 ・公然の党員

 ・非公然の党員

 ・同伴者(Fellow Travelers)

 ・機会主義者(Opportunists)

 ・デュープス(Dupes)

 「同伴者」とは、共産党が示した特定の問題についての対応や解決策への強い共感から、共産党のための活動をする非共産員だ。「しんぶん赤旗」に名前が載る女優の吉永小百合さんや映画監督の山田洋次さんがこれに当たるかもしれない。

 

 「機会主義者」とは、選挙での票や賄賂といった個人的な利益のため、一時的に共産主義者たちと協力する人たちだ。共産党の票が欲しいために共産党との選挙協力に踏み切ろうとしている民主党の岡田執行部や維新の党の松野執行部は「機会主義者」と呼べるだろう。

 最後の「デュープス」は、日本語で言えば、間抜け、騙されやすい人々という意味だ。明確な意思を持って共産党のために活動をする人々ではなく、ソ連コミンテルンによって運営される政党やフロント組織が訴える普遍的な“正義”に対して情緒的な共感を抱き、知らず知らずのうちに共産党に利用されている人々のことを指す。「戦争法案反対」デモに参加した芸能人・知識人たちやサヨク・マスコミの大半が「デュープス」ということになるだろうか。

 このように共産主義陣営の真の恐ろしさは、彼らの方針に従う非党員グループを作り、広範な影響力を発揮するところだ。日本共産党の活動などは、表面的なものに過ぎず、真の政治工作は、秘密裏に、かつ広範に行われている。

 ほとんど知られていないが、知識人・芸能人やマスコミを「デュープス」にする手法を編み出したのが、コミンテルン幹部でドイツ生まれのヴィリー・ミュンツェンベルクだ。

 

 

 ミュンツェンベルクは1930年代、

物理学者のアインシュタイン

作家のアンドレ・ジッド、

孫文夫人の宋慶齢

劇作家のバーナード・ショーなどの世界的な著名人を反戦平和運動」に巻き込んで反戦世論を盛り上げアメリカやイギリス、そして蒋介石政権をソ連主導の「反日反独の人民統一戦線」に取り込むことに成功、結果的に日本を敗戦に追い込んだ。

 ところが、ミュンツェンベルクについてはこれまで京都大学名誉教授の中西輝政氏が月刊誌などで言及しているだけで本格的な研究書は日本に存在しなかった。佐々木太郎氏の『革命のインテリジェンス』が本邦初となる。

 なぜ日本は戦前、米ソに追い込まれたのかを理解するためだけでなく、現在進行中の、日本共産党による「国民連合政府」構想の危険性を理解するためにも広く読まれることを期待したい。

共産主義特異な「平和」観とは…

 野党5党が「戦争法案反対」「安倍政権打倒」で結束していくことを決定したことがいかに危険なことなのか、もう少し考えてみたい。

 民主党共産主義を容認するわけがないし、「戦争法案反対」で共闘するだけだから、それほど警戒しなくてもいいのではないか。そんな声も耳にするが、それは無邪気すぎると言わざるを得ない。というのも、そもそも共産主義者が使ってきた「平和」の意味が、われわれ国民の常識とは全く異なっているからだ。

 

 

 1935年、第7回コミンテルン大会においてソ連は、ドイツと日本こそが「軍国主義国家」であると規定し、各国の共産党に次のような指示を出した。

 《共産党は(中略)戦争準備の目的でブルジョワ民主主義的自由を制限する非常立法に反対し、軍需工場の労働者の権利の制限に反対し、軍需産業への補助金の交付に反対し、兵器貿易と兵器の輸送に反対して、たたかわなければならない。(中略)ソ連社会主義の防衛のために労農赤軍を出動させることを余儀なくされたばあいには、共産主義者は、あらゆる手段をもちい、どんな犠牲をはらってでも、赤軍帝国主義者の軍隊に勝利するのをたすけるように、すべての勤労者によびかけるであろう》

 要するにソ連に軍事的に対抗しようとする日本とドイツの軍備増強に徹底的に反対し、いざとなればソ連を守るため日本とドイツを敗戦に追い込むよう努力することが「平和」を守ることだと、主張したのだ。

 ではなぜ、ソ連を守ることが平和を守ることなのか。共産主義者は「戦争とは資本主義国同士が限られた資源を争奪する過程で不可避的に勃発するものであり、恒久平和を実現するためには国際社会から資本主義国をなくし、世界を共産化するしかない」と考える。しかし、直ちに世界共産化は難しいので、まずは世界共産化の司令塔であるソ連を守ろう、という論理なのである。

 

 このように、日本の防衛を否定し、いざとなれば日本が戦争で敗北するように動くことが、共産党の主張する平和運動なのである。

 この80年前の方針はいまなお墨守され、

共産党サヨク・マスコミは、世界共産化の拠点となってきた中国共産党北朝鮮がどれだけ安全保障上の脅威を増しても、その脅威を無視するだけで、いざとなれば日本が敗北するようにするため、「戦争法案反対」「憲法9条を守れ」と叫んでいる、あるいは知らぬうちに叫ばされているのだ。

 共産党が主導する「反戦平和」路線に乗ることは、中国共産党の軍拡を支援し、資本主義を掲げる日本を解体する運動に加わることを意味する。連合や民主党内部の保守系議員は、その恐ろしさをどこまで理解しているのだろうか。

■「保育園落ちた日本死ね」に透けてみえる左翼の思考

 共産陣営の恐ろしさは平和運動だけではない。「保育園落ちた日本死ね」という匿名ブログが、マスコミで取り上げられ、国会でも問題となった。

 なぜ保育園に入れなかったことが「日本死ね」という発想につながるのか、怪訝に思った人も多かったに違いない。それは、サヨクたちの思考を理解していないからなのだ。

 

 彼らサヨクたちは程度の差こそあるものの「資本主義国では、子供は必然的に搾取され、抑圧される。また、発展途上国の子供たちも搾取され、まともに教育さえ受けることができないばかりか、ブルジョワジーたちが起こす戦争の犠牲者となる。子供たちを戦争と貧困の危機から救い、真に児童の権利を守るためには、資本主義・帝国主義を打倒し、社会主義社会を実現するよりほかにない」と考えているのだ。

 だからサヨクは「保育園に入れないのは、子供を搾取する資本主義体制だからであり、資本主義を掲げる日本を打倒しない限り、この問題は解決されない」と思い込んでいるのだ。「日本死ね」という言葉の奥には、資本主義体制への呪詛がある。安倍政権がいくら待機児童問題に取り組んでいようが、そんなことは関係ないのだ。

 その一方で、貧困問題を直ちに政権批判に結びつける共産党サヨク・マスコミの手法に反発して保守側も、貧困問題に対して懐疑的な見方をする傾向が強い。その結果、子供の貧困や非正規雇用といった課題は放置されてしまいがちだ。

 確かに何でも政権批判に結びつけるサヨクの手法はうんざりだが、だからといって子供の貧困問題や若者の雇用環境の悪化を放置していていいはずがない。貧困問題の背景には、二十年近くデフレを続けてきた政府・日銀の政策の失敗があるわけで、「自己責任」で片づけるのは不公平だ。

 2月19日の、野党5党合意に基づく選挙協力を推進するための理論的な準備も既に始まっている。

 例えば、『世界』4月号は、「分断社会・日本」という誌上シンポジウムを掲載している。その意図をこう記している。

 《日本社会がこわれようとしている。労働市場、財政、所得階層などの経済指標はもちろん、自由、人権、信頼といった社会指標を追いかけてみるとよい。いまの日本社会では価値を共有することが極めて難しく、また、社会のあちこちに分断線が刻み込まれている。そうした社会の分断状況は、正規・非正規問題。排外主義、居住区間の分断、コミュニティの破壊、ジェンダー問題など、多様な角度から私たちの社会に「いきづらさ」という暗い影を落としている》

 こう問題提起をした上で、自由主義的な市場経済、道徳、極端な競争社会、民主主義に伴う政治的対立の激化などをやり玉に挙げる一方で、戦時中の国家総動員体制下で革新官僚たちによって検討された「働く国民の生活を国家が保障する」制度--これは恐らく社会主義体制のことを示唆しているのだろうが--を評価する。

 そして《地方誘導型の利益分配も機能不全に陥るなか》、《近代自体が終焉と向かう時代がわたしたちの目の前に広がっている》のであるから、《わたしたちは、新しい秩序や価値を創造し、痛みや喜びを共有することを促すような仕組みを作り出す》ことが重要だと、締めくくっている。

握手を交わす共産党の志位委員長(左)と民進党の岡田代表(共同) 握手を交わす共産党の志位委員長(左)と民進党岡田代表(共同)

 要は資本主義や議会制民主主義が現在の非正規労働者の増加、排外主義、コミュニティの破壊といった問題を起こしているのだから、新しい仕組み(社会主義のことか)を目指すべきだと主張しているのだ。

 恐らく今後、「分断社会」をキーワードに多くの社会問題が資本主義、議会制民主主義の構造的欠陥の帰結であるとして論じられ、社会主義を容認する方向へ世論誘導がなされていくだろう。

 この思想攻勢に対抗するためには、消費税増税で減速したアベノミクス増税延期(又は減税)と財政出動などによって立て直し、まずは景気回復を実現することだ。経済的困難が続くと、国民はおかしな方向に誘導されやすくなるからだ。

 あわせて子供の貧困や奨学金問題などサヨクが取り組んでいるテーマに保守の側こそ積極的に取り組むことだ。経済的弱者に手を差し伸べることは本来、保守の役割であったはずである。

江崎道朗(えさき・みちお) 昭和37(1962)年、東京都生まれ。九州大学文学部卒。日本会議専任研究員や国会議員政策スタッフなどを歴任。著書に『コミンテルンルーズヴェルトの時限爆弾-迫り来る反日包囲網の正体を暴く』(展転社)など。

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